木版画をやっている女性が、工房を訪ねたいとのことでお迎えした。
ひとことで「版画」と言っても多様だから、話を伺ってみると彼女の版画は「西洋木版画」のことだった。 「西洋木版」と言われているのは木の木口を版面に使った、昔の挿絵用の版木と理解している。 昔、J.テニエルやM.C.エッシャーをイメージして細かな木版を彫ろうとしたことがあったが、残念ながら知識不足で普通の柾目板を使い細めの彫刻刀で彫ったので、当然のように挫折してしまった。 その後、父に教わり木口を使った細かい図柄の版木を見ることがあり、エッチングの技法に似た彫り方をすることも知った。 版木には固く目の詰まった樹種、黄楊(つげ)を使うそうだ。 分類上、高木と言われてもそんなに大きな黄楊の木は見たことが無く、木口の面積は木の太さに準じるから、版木の大きさは限られる。大きなものを刷るには集成材を拵えて使うようだが、同じ黄楊を材に使う根付(ねつけ)よりも材積を食う割に仕入が難しそうだ。 彫る工具はエッチングのニードルとは少し違うビュラン(Burin)を使う、僕も彫刻刀の柄を長いもので据え、先っぽを胸のあたりで押しながら刃先に近い部分をコントロールして彫る癖があるが、ビュランはそのように両手を使い彫る。 さて、この木版画家・柴田さんは、当工房を訪ね、以前からの知己であった弟子宅に一泊し、同年輩の仲間達と痛飲しながら語る中で、自身を「印刷屋」と位置づけし木口木版を続けようと思い立ったらしい、帰京された日に来房のお礼の電話で「柴田印刷」として版画を刷る由ご挨拶があった。 そもそもが活字とは別に、挿絵を印刷する為にあった木口木版を、これからどう使って貰うのかを考えるのは楽しい、印章や家紋などはもちろん、名刺や蔵書カード、小さな紙片に印刷を施したい時にそれに特別な価値を加えたいのなら、木口木版画はぴったりだと思う。 木口木版の印刷にはそれなりの技術が必要だから印刷までを請け負うも良し、少し器用な人であれば自身での印刷も可能だから版木を渡して刷って貰うのも良し、体験会などを開けばさらに楽しいのではないだろうか。 この小さな画を刷って、何分の何枚とナンバリングをし、額に入れて展示し作品として売るのもいいだろう。 だが、最初にこの技法から生まれたものを見た時、何か心を動かされてそれに向かったとしたら、それはもしかしたらこの技法が生まれて、この技法で作られて、この技法で出来たものが使われた、その過程の「用」から生まれた美しさではないだろうか。 印刷店が刷る印刷にナンバリングは要らない、「柴田印刷」という版画への向き合い方は、僕にとっては何か安心できる、ごく自然な方法であるように思えたことだった。
by t-h-arch
| 2015-02-07 18:32
| 木工
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